9mm Parabellum Bullet


9mm Parabellum Bullet TOUR 2016 “太陽が欲しいだけ”
2016年11月5日(土)豊洲PIT

不可避の試練にも似た波乱万丈のツアーが9mmと僕らに残したもの



 さる11月9日(“9”は偶然ではないだろう)に滝 善充が9mm Parabellum Bulletでのライブ活動を期限を決めずに休養することが発表されたため、結果的に4人が揃う貴重なライブとなってしまった『9mm Parabellum Bullet TOUR 2016 “太陽が欲しいだけ”』追加公演。
 これほどまでに終始波乱含みだったツアーは、12年におよぶ9mmの歴史のなかでも初めてだろう。ツアーのキックオフ的な位置づけだった8年ぶりの日比谷野外大音楽堂でのワンマン・ライブ中に滝が左腕の不調を訴え、菅原卓郎がアコースティック・ギターで弾き語りを急遽披露するなど、予定していたセットリストを大幅に変更。当初は公演中止が発表されたツアー前半の山形、青森、長野、富山、京都、三重ではメンバーの強い意向により卓郎、和彦、かみじょうでのアコースティック編成でのライブを敢行。さまざまな精密検査と診断結果を受けて7月末には滝が現場復帰し、シンセサイザーを兼任。また、サポート・ギタリストとしてHEREの武田将幸が参加することに。
 9月から再開されたツアーの熊本、福岡、愛媛、香川、広島、鳥取では卓郎とゲスト・ボーカリストによるアコースティック・ライブがオープニングで披露され(熊本と福岡はBLUE ENCOUNTの田邊駿一、愛媛と香川はアルカラの稲村太佑、広島はTHE BACK HORNの山田将司、鳥取はNothing's Carved In Stoneの村松 拓が参加)、Zepp SapporoからZepp Nambaの5公演ではゲスト・バンドを迎えてライブが行なわれた(北海道はWienners、東京はHERE、愛知はTHE BOY MEETS GIRLS、宮城はMy Hair is Bad、大阪はフレンズが共演)。
 いずれもまだ長丁場のライブをやれないゆえに9mmが講じた善後策だったが、結果的には普段味わえない趣向を凝らした内容となり、見事にピンチをチャンスに転ずることができたツアーだったのではないか。おそらくは各ボーカリスト、各バンドとも急なオファーだったはずで、これだけの面子が意気に感じて共演を快諾したのは、9mmの人徳ならぬバンド徳である。

 本ツアーのグランドフィナーレであり真の千秋楽、そして結果的に滝のライブ活動休養前の最後のステージとなった豊洲PIT公演について改めて振り返ってみよう。
 共演に指名されたのはキャリア20年以上を誇るGRAPEVINE。野外フェスやイベントなどでの共演はこれまでもあったものの、がっぷり四つに組む2マンは今回が初となる。開演直後の卓郎の前説によると、GRAPEVINEは中学生の頃に『ミュージック・スクエア』というラジオ番組で知ってから好んで聴いていたといい、滝も耳コピで4th Singleの「スロウ」を弾けるくらい好きだったそうだ。
 卓郎の呼び込みでステージに現れたGRAPEVINEは、田中和将が満員のフロアを見渡し、笑みを浮かべながら「これが9mmのお客さんか!」と一言。文字通り大空へ羽ばたくようなスケールの大きさを感じさせる「FLY」でまずは場内を温める。ジャム・セッションから生まれ、作詞・作曲のクレジットを初めてバンド名義にしたこの「FLY」を始め、ヘヴィなギターと変則リズムが絡み合う「スレドニ・ヴァシュター」、ソリッドでブルージーな「MISOGI」、アンサンブルが進むにつれて狂気とカオスが渾身一体となるサイケデリック・チューン「CORE」など、ハードかつラウドな楽曲を中心に据えたのは9mmのオーディエンスを意識しているように感じた。「知らない人もいると思うけど、僕らは70年代から活躍してます」とジョークを飛ばしながら瑞々しく爽快感溢れる(でも歌詞は物悲しい)「1977」を披露する様も堂に入ったもので、20年選手ならではの貫禄を感じさせつつも、まだまだその地位には甘んじないという先鋭さを選曲の妙とプレイで見せつけたステージだった。卓郎いわく「9mmのお客さんなら、どんな対バンでもその良さを分かってくれるはず」という思いで共演バンドを決めているそうだが、この日初めてGRAPEVINEを見た9mmのオーディエンスも存分に堪能できたのではないだろうか。


 そしてお待ちかねの9mmである。前説で卓郎が話していた「短い時間だからこそ、最初から全力で来て欲しい」という呼びかけに応えるように、1曲目の「太陽が欲しいだけ」からフロアの沸点は最高潮。場内後方から見渡せる激しく突き上げる拳と手拍子、地鳴りのような歓声、揺れる場内に思わず身震いする。広い会場で天井も高いせいか、五重奏の鳴りと響きが耳に心地好い。
 そんなオーディエンスの熱狂的なリアクションに感化されたのか、「行くぞ、東京!」と卓郎のコールも力強い。その言葉に導かれて披露されたのは定番中の定番曲「Discommunication」だ。メジャー・デビュー9周年の節目を迎えた10月のZepp Tokyo公演でも滝を除く3人と武田のサポートで演奏されていたが、この日は滝もシンセサイザーで参加して曲に新たなニュアンスを加味した。これ以降、滝は曲ごとにギターとシンセを巧みに使い分け、その曲の持つ良さを最大限引き出すことに腐心する。

 この日の滝はとにかく絶好調だった。オーバーアクション気味に速弾きもタッピングも変幻自在にこなす様はいつも通りだったし、ロシア民謡調ハードコアとも言うべき「モーニングベル」や「前説よりも短い曲です」と卓郎が紹介した「インフェルノ」でもしゃにむに弾きまくり、このツアーでは初めて披露された「ロンリーボーイ」ではお立ち台の上に立って流麗なソロを見事に決めた。ギターを弾く姿がやはり絵になる、天性のギタリストなのだろう。クールな佇まいでダイナミックかつ躍動感溢れるトリッキーなドラムを叩くかみじょうちひろ、ベースをブンブン振り回しながらもアンサンブルのボトムを堅実に支える中村和彦もその強烈な個性と存在感を見る者に容赦なく刻みつける。そして、彼ら3人がいて初めて卓郎はボーカリストとしての力量を余すところなく発揮する。その逆もまた然り。3人の武骨で重厚な鉄壁合奏には卓郎の澄んだハイトーン・ボイスがなくてはならないものなのだ。
 いま思えば、滝はこの時点でライブ活動を当面控えることを迷いながらもある程度考えていたのかもしれない。キレとコクのある滝のパフォーマンスが蘇ったと僕らが感じたのは、彼がいまこの瞬間にやりきれることをすべてやりきろうと満身創痍でステージに全力を注いでいたからではないか。また、そんな滝の心のうつろいを卓郎も和彦もかみじょうも敏感に感じ取っていたような気もする。だとすれば、この日の彼らの傑出したパフォーマンスと、アンコールに至るまでの流れも合点がいく。


 閑話休題。「“太陽が欲しいだけ”っていうタイトルのツアーだったのに、ツアー中はあまり太陽に出会えなかったけど、今日は最後の最後に会えて良かった」と晴天に恵まれたことを喜ぶ卓郎のMCを受けて披露されたのは、6th Album『Waltz on Life Line』のなかでも屈指の名曲「スタンドバイミー」。ここでは滝の後ろで一歩引いてサポートに徹していた武田のプレイと存在感が際立って見えた。9mmの肝であるギターのリフやソロを滝の代わりに弾くプレッシャーは相当なものだったはずだが、フレーズの原型を大きく崩すこともなく、かと言って没個性になるわけでもなく、絶妙なセンスとバランスでバンドに溶け込んでいたのが素晴らしかった。その溶け込みぶり、一体感が確かなものなのは、ライブ中に卓郎が武田の紹介を忘れた理由を「(武田が)体の一部になりすぎていて」と話したことからも明白だ。
 急な救難信号に応答して窮地を救ってくれた本ツアーのすべての共演者、そして今日のGRAPEVINEに感謝の意を述べた後は怒涛の無礼講モードへ突入。いまやライブでは不可欠の「反逆のマーチ」は滝がシンセにスイッチしても楽曲の荒ぶるドライブ感が損なわれることはなく、バンドもオーディエンスもテンションの針がレッドゾーンへと踏み込んでいく。

 続く「The Revolutionary」は個人的に感慨深いものがあった。6月の野音で、滝のアクシデントを受けた卓郎が急遽弾き語りで披露した曲だったからだ。あれから4ヶ月ちょっとが経ち、サポートの存在はありつつも、いままたこうして不動のバンド編成で奏でられる不動のアンセムとして帰ってきた。これには否応なく感情が昂ぶる。ましてや、和彦と武田が向き合って熱の籠ったプレイをする姿、再びモニターの上に立ってESP SUFFERをひたすら掻きむしり、歌の掛け合いで「世界をー!」と絶叫する滝の元気な姿を見ればなおさらだ。
 本編最後は、「出しきってない人は全部出しきってくれ!」という卓郎のMCとともに放たれた「生命のワルツ」。長く続いてきた波乱万丈のツアーを締めくくるに相応しい、未来のレールをつなぐ一曲である。ありったけの気力と体力を振り絞る5人の熱演が深く胸を打つ。
 だが当然、オーディエンスはアンコールを求めてやまない。およそ数分後、おなじみのエンディングSEであるGIPSY KINGSの「My Way」を掻き消すほどの大歓声に迎えられて現れたのは、卓郎と和彦とかみじょうの3人だけだった。今回もまた滝はアンコールに不参加なのか、いや、今日はあれだけ復調の兆しを見せてくれたのだから、それは高望みというものだ……と考えていたところ、卓郎が思わぬことを言い放った。
 「せっかくなので、武田君なしで演奏していいですか? 最後に俺たち4人だけでやります!」
 その言葉に導かれて舞台下手から現れる滝。万雷の拍手喝采。6月の野音以来となる純粋に4人だけの9mm。四者四様の迸る激情が音になって熾烈にぶつかり合う。これぞまさにグランドフィナーレを飾るビッグサプライズであり、とても心憎い演出だった。

 「9mmはこれからも山あり谷あり…海ありいろいろありでやっていくので、力を貸してください! これからもよろしくお願いします!」という卓郎の呼びかけと、それに応える割れんばかりの拍手。苦境のツアーを何とか乗り越えられたのは9mmを愛してやまない彼らオーディエンスの渾身の応援があってこそだ。ファンはバンドを写す鏡と言うが、実に頼もしい存在である。
 そんな彼らに、さらなるビッグサプライズが訪れる。終演後に突如ステージに現れたスクリーン、そこで「特報! 2017年春 7th Album発売決定!」という衝撃のニュースが発表されたのだ。フロアから喜びと驚きがないまぜになった大きなどよめきが起こる。逆境をバネにして何度でも立ち上がるその姿は七転び八起き、いや、9mmだけに九転び十起きと言うべきか。いずれにせよ、彼らはまた一歩前へ進むことを選んだ。独立独歩の道を歩み始めて3年半、どれだけ辛酸を舐めても9mmは荒野の獣道を突き進む。その揺るぎない決意と覚悟を確かに受け止められたことがこの日最大の収穫だった。

 それから4日後に発表された滝のライブ活動休養は、メンバーとスタッフによる英断だったと思う。そもそもバンドが解散するわけでも、滝が脱退するわけでもない。あくまでも9mmを続けていくことがメンバーとスタッフの総意であり、客観的に見ても最良の選択だったと感じる。確かに滝のライブ不在は寂しいし、生粋のライブ・バンドである9mmにとっては大きな損失だ。その不在期間がいつまでになるのかは彼の体調次第なので、現時点では明言もできない。だが、「急がば回れ」という言葉もある。無理な近道をせず、回り道でも確実な方法を選んだほうが目的地はむしろ早くなるものだ。
 これまで幾度となく取材で接してきた滝の性格から察するに、6月の野音以降、責任感の強い彼のなかではメンバーやスタッフ、何よりツアーを楽しみにしていた全国のファンに対して申し訳ないという忸怩たる思いでいっぱいだっただろうし、腕や指が自由に動かないこと、それがいつ完治するのか分からないことへの不安、現場復帰しても本調子を発揮できない不甲斐なさも感じていただろう。そんな状況下でバンドの屋号を背負ってギターを弾かなくてはならないプレッシャーも僕らの想像を超えるくらいあったはずだ。
 滝の心身を気遣う卓郎、和彦、かみじょう、彼らを支えるスタッフも、ただでさえ波乱含みの今回のツアーのさなかに今後に向けた協議を何度も何度も重ねたことだろう。もしかしたら、最悪の選択肢が頭をかすめることもあったかもしれない。でも、考えてみて欲しい。バンドが瓦解する危機に直面したことはこの12年の間に何度かあったはずだ。そのたびに彼らは立ち止まることなく前進することを選んできたではないか。バンドとは奇跡の集合体であり、いともたやすく壊れるものだ。優れたバンドがさまざまな事情で短命に終わるケースをあなたもさんざん見てきたはずだ。9mmも人の子である。バンドとして何かしらの目標を成し遂げたという達成感がこれまでにあったなら、その時点で解散していただろう。バンドは義務でやるものではないし、何も長く続けていればいいというわけではないのだから。
 だが、幾多の困難を極めてもなお、9mmはこれまで常に未来に向けて進化していく道を選んできた。今回だってそうだ。なぜなら、彼ら4人にはこの4人にしかできない表現がまだまだあるという自信があるから。最高傑作はネクスト・ワンという強い自負があるから。道の果てにあるまだ見ぬ景色を見たいという思いがあるから。そして、9mmという紆余曲折だらけでワン&オンリーの物語をあなたと共有したいからだ。
 思い出して欲しい。10月のZepp Tokyo公演で卓郎が話していた言葉を。「9mmにとって、滝の代わりはいないんだよ」
 滝だけではない。卓郎も、和彦も、かみじょうも、みな代替不可のメンバーだ。そんな性格も個性も違う4人が丹精を込めて紡いできた長く曲がりくねった9mmの物語を、僕はこの先もずっと見届けたい。きっとあなたもそうだろう。「みんなにも代わりのないものが見つかるといいね」とZepp Tokyoで卓郎は話していたが、僕らにとって代わりのないもの、それは言うまでもなく9mm Parabellum Bulletというバンドそのものなのだ。
 こうして振り返ってみると、僕らファンにとっては9mmが如何に切実なバンドなのかを改めて理解できたという意味で、バンドにとっては次のステップへ邁進するために得難い経験ができたという意味で、『9mm Parabellum Bullet TOUR 2016 “太陽が欲しいだけ”』という終始波乱に満ちたツアーは非常に有意義な洗礼だったと思えてならないのである。
(文:椎名宗之、撮影:橋本 塁[SOUND SHOOTER])


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